前回のエントリーについて、矢部善朗弁護士からトラックバックを戴きました。
矢部先生は、
つまり、グレーゾーンに対する調査は常に証拠隠滅の可能性を視野にいれなければならないということになります。
そして、証拠が隠滅されたなら、事実の正確な解明が困難または不可能になり、その結果として正しい評価または解釈を行うことも困難または不可能になります。
つまり調査機関には、証拠隠滅を阻止し、隠蔽された証拠を暴きだすことができる強力な権限と能力が必要です
と仰っています。
私は、実体法の解釈としてそれが適法か違法か見解が分かれる場合(俗に「グレーゾーン」といわれている場合です。)、それを違法とする旨の監督官庁の指針が示された後にあえてその活動を続ける人に対してのみ国家は刑罰権を行使すれば足り、その指針が示された後速やかに従前の行動を改めた者に対して刑罰権を行使する必要はないので、「グレーゾーン」に関して証拠隠滅の可能性をおそれ、隠蔽された証拠を暴き出す必要はないと考えるのです。
「グレーゾーン」についてそれが実体法的に「白」なのか「黒」なのかを正しく評価するための前提として「事実の正確な解明」を行うためのコストとして、警察・検察が強制捜査を行うことにより市民や企業に与える不利益は大きすぎます。
例えばライブドアの例についていえば、「実体法の解釈論争」の結果適法説が裁判所により採用されたとして、これによって堀江さんを含む4人の幹部社員が被った様々な不利益を国家は賠償ないし補償できるかといえば、おそらくできないでしょう。「堀江社長が無罪となってもライブドアには戻さない」みたいな言説が既にまかり通っています。4〜500万円の補償金をもらったって経済的な損失すら全く埋め合わせることができません。
なお、逮捕及び起訴の容疑とされているらしい証券取引法158条の「風説の流布」の罪についていえば、事務所においてあった証券取引法の注釈書を見る限り、不真正不作為犯が成立する可能性については論じられておらず、したがってどのような情報を開示しなかった場合には「不作為による風説の流布」が成立するのかについての解説はありませんでした。証券取引法等により積極的に開示することが明示的に義務づけられている情報については作為義務(開示義務)が認められ得るとしても、開示義務が明示的に定められていない情報(例えば、会社の買収について公表する場合に買収の対象となる会社の既存株主への出資状況等について)について、それが開示されているか否かで株価に影響を与えうるからといって、これを積極的に開示する義務を負うのかというと、それはそう単純な話ではないように思います。
【今日聴いた曲の中でお勧めの1曲】
L'art du corps et du coeur
by Tragedie